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2020.09.10 REPORT

「角川武蔵野ミュージアム竣工記念対談|隈研吾×松岡正剛」レポート!

9月5日、「角川武蔵野ミュージアム」の設計者である隈研吾さんと、セイゴオによるスペシャル対談がおこなわれました。現在同ミュージアムで開催中の「隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生 石と木の超建築」展の記念企画です。対談のテーマは、第1部「ミュージアムと建築」と第2部「方法のデザイン」の2部構成で、隈さんが着想から設計、建造に至った歩みを振り返るとともに、世界の人々の心をとらえる隈建築の魅力とデザインの本質に、セイゴオが迫りました。会場は、隈さんがデザイン監修を手がけた併設劇場「ジャパンパビリオン」。

 

■第一部「ミュージアムと建築」

第1部「ミュージアムと建築」の対談の様子。第二部ともに各90名の定員が満席になった。

 

隈さんは10歳のときに、丹下健三氏の代々木競技場を見て、その輝くような空間設計に度肝を抜かれ、建築家を志すようになったと語る。しかし、1970年の大阪万博における建築家の仕事に大いに失望。その後、モダニズム建築に疑問を抱き続けるなか、東京大学大学院で原広司氏に師事。人為的な「フレーム」「コンポジション」という方法ではなく、土着的な建築アプローチとともに「集落」研究に惹かれ、文化人類学的な方法への意識をもった。
1985年にニューヨークへ渡り、帰国後に独立するが、間もなくバブルが崩壊。借金を抱え、東京で仕事がなくなり、そこから地方巡りに乗り出した。当時出会った人々との交流がいまでも大きな財産になっているという。

 

「角川武蔵野ミュージアムの設計プロセスはまさに、ブリコラージュである」と語る隈さん。

 

“石”の超建築 「角川武蔵野ミュージアム」。これをセイゴオは「有角建築」と称した。

 

第一部終了後、一時間のインターバルでは、セイゴオが監修し、隈研吾が設計した図書空間「 エディットタウン」の紹介映像が流された。

 

■第二部「方法とデザイン」

第二部「方法とデザイン」は第一部とは趣向を変え、隈建築の深層に迫る内容になった。

 

セイゴオ:建築とデザインの関係についてはどう考えていますか。

 

隈:部分と全体の関係ということで言うと、最初に全体を考えるのではなく、部分から考えていく設計アプローチです。粒子が生きる設計を目指している。角川武蔵野ミュージアムはまさにそれを体現できた。

 

セイゴオ:たとえば音楽でいうと、リズムや、メロディの構成がカッチリしているのではなく、ジャズで生じるグルーヴ感とか、即効演奏で生じるズレが建築においても重要。隈さんの設計はカチッとしているわけではなく、動きそうな感じがある。

 

隈:ズレまくっていて、失敗ばかりの仕事を成立させることに関心がある。ズレを失敗にさせない設計とはどういうもの、そこを考えたい。

 

数をこなさなければいけなかった事務所立ち上げ初期の頃は、「方法」ということに自覚的ではなく、「方法」を言語化しないでも仕事をしていられた。しかし、日本最大級の建築事務所を構え、同時並行のプロジェクトが200を超える現在では、「方法」の言語化を真剣に考えるようになったと、隈さんは語る。常に新しいことを求められるようになったことで、自分の方法に直面させられていると言う。その言語化の成果が新著『点・線・面』(岩波書店)などの書籍に結実した。

 

隈さんの新著『点・線・面』(岩波書店)と『ひとの住処』(新潮社)。

 

「点・線・面」には量子力学への言及があり、アフォーダンスと組み合わせて建築が語られている。ル・コルビュジェとアインシュタインのエピソードやスイスの建築史家ジークフリート・ギーディオンの著作にも触れていったが、ニュートン力学の影響下から抜け出せず、現代物理学に失望した。そんな中、恩師の原広司の講演で紹介されていた大栗博司の超弦理論を知る。大栗氏の次元解説がすばらしく、建築の文脈で応用できるのではと思い至ったという。

隈:松岡さんがあらゆる分野の本を整理して、あれだけ的確にナビゲートできるのはどうしてなのでしょうか。

 

セイゴオ:ある仕事をするということは、そこへ差し掛かってそれを終えて先にいくこと。たとえば、駅に降りたら、駅から出ていく。つまり、あるものがインしてアウトすることが大事だと思っている。そのときに、同じようなものばかりつくっていると、出入りするときの自分の感動とか想いが退屈になる。そこで、入射角と出射角を変化させる。どんな本を読むときも、新たな気分を入れるために、入るときと出るときを注意している。

 

「建築家で量子力学を持ち出す人は非常に珍しい」と目をみはるセイゴオ。

 

隈さんは若き日に、まわりの建築家同様、セイゴオが編集した『遊』を読み、影響を受けたという。

 

隈さんは建築家として、自然や歴史、量子力学のうちに点・線・面の新しいあり方を探り当てた。木、石、土など、物質と対話を繰り返しながらたどり着いた隈建築の扉は新しい世界に開かれている。
セイゴオが館長をつとめる角川武蔵野ミュージアムは、隈さんの「石」の建築の代表として、これから存在感を放ち続けることだろう。

 

楽屋で談話する隈さんとセイゴオ。「いままで隈さんとは対談形式でじっくりと話してはこなかったので、この一日を楽しみにしていた」と語った。

 

対談のための仕込みとして、自著『デザイン知』(角川ソフィア文庫)を読み返すセイゴオ。

 

レポート:西村俊克
現場写真:後藤由加里・西村俊克