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2021.09.13 PUBLISHING

PUBLISHING 蘇った『外は、良寛。』-講談社文芸文庫で登場

1993年に芸術新聞社から刊行された『外は、良寛。』が、このたび講談社文芸文庫となって蘇りました!

 

千夜千冊第1000夜を『良寛全集』で締めくくっていることにもあらわれているように、セイゴオにとって良寛はずっと格別な存在であり、折々その面影をたどってきた人物です。

 

その冒頭に綴られているのが、『外は、良寛。』を上梓した経緯についてでした。この本もまた、セイゴオにとってとりわけ愛着の深い一冊なのです。担当編集者だった芸術新聞社の古賀弘幸さんとともに良寛ゆかりの出雲崎や五合庵を取材して回ったことも、そのころから出不精のセイゴオにとって大変珍しいことだったようです。

 

羽良田平吉さんの造本設計がまたすばらしく、セイゴオがこの本の「結構」を決めるにあたり乾坤一擲で選び抜いた漢詩「淡雪の中にたちたる 三千大千世界 またその中に 沫雪ぞ降る」の世界観を、見事にカバーデザインや見出しのフォントや別紙による良寛の書の文字色などに照応させてくれました。

 

千夜千冊が第一夜を中谷宇吉郎の『雪』から始めて第千夜を『良寛全集』にしたのは、『外は、良寛。』が「淡雪の中」から始まり「沫雪ぞ降る」で締めくくっていることの符牒であろう、あの一冊を千夜千冊で再現してみせたのだというような推理をするコアなセイゴオファンも少なくありませんでした。

 

それほど大事な『外は、良寛。』だったのですが、残念ながら今世紀に入ってから長らく絶版のままとなり、ほとんど「幻の一冊」になりかけていたのでした。

 

芸術新聞社『外は、良寛。』 造本設計:羽良田平吉氏
カバーには良寛の書とともに淡雪のような薄箔が散らされている。

 

五合庵を取材する若きセイゴオ(1992年) 写真:遠藤純氏

 

このたび、『外は、良寛。』が講談社文芸文庫として蘇ることになり、セイゴオは全体にわたって多少の修筆を施し、新たに文庫のための「あとがき」を書き下ろしました。この本のことを改めて、「良寛的なるものとは何か」ということを追慕しその佇まいや消息や気配を問うものだった、というふうに振り返っています。芸術新聞社版の「あとがき」も巻末に収録されています。

 

文庫ならではのお楽しみとして、解説は歌人の水原紫苑さんが引き受けてくださいました。セイゴオの込めたフラジリティの感覚を柔らかく受け止めて、まさに「セイゴオぶんの良寛」というものを、フレイジーに詠じて見せてくださっています。

 

またさらには講談社学芸文庫ならではのお楽しみとして、巻末に詳細な著者年譜、すなわちセイゴオの年譜が付されています。こちらは松岡正剛事務所の太田香保が腕を振るい、1944年のセイゴオの誕生から今年2021年のがん手術までを収めました。

 

学芸文庫版のほうも、良寛の書が随所に挿入されている。

 

松岡正剛年譜は堂々17ページぶん

 

 

 「老いた童子」と著者が呼ぶ良寛は、雪のように舞い訪れるまれびとの神の姿にも近い。『外は、良寛。』とは真実だ。私たちの外は、すべて降りやまない無限の良寛、いや、私たちが、永遠に終わらない良寛の夢の中に生きているのかもしれない。あの書が中空で迎えてくれる時、私たちもまたフラジャイルなのである。

――水原紫苑 解説:「あはひ」におのずから舞い出すもの

 

 

カバーデザインは菊池信義氏。銀箔押しの文字が浮かび上がって見える。またしてもセイゴオが愛着をもちそうな、見事な「、」「。」の打ち方。

 

『外は、良寛。』
講談社学芸文庫
2021年9月10日発行
定価:本体2300円(税別)

 

 

文:太田香保
新『外は、良寛。』撮影:寺平賢司+上杉公志
旧『外は、良寛。』撮影:川本聖哉