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2021.09.11 EVENT

EVENT【千夜千冊エディションフェア特集㊵】幻の知祭り――大分・カモシカ書店からのメッセージ

コロナ禍のさなかに全国でにぎわってきた千夜千冊エディションフェアですが、なかにはせっかく知祭り棚を準備しながら、緊急事態宣言をうけて思うようにフェアが展開できない書店もありました。大分市で、古書と新刊本を扱う書店であり読書と交流の場としてのカフェでもある店舗を営むカモシカ書店さんもそのひとつ。8月から9月中旬にフェアを開催予定だったのですが、休業がつづき、とうとう再開することが叶いませんでした。

 

それでも仕掛人であるイシス編集学校の田中さつきさんが店舗を訪ね、準備されたフェア棚を取材するとともに、店主である岩尾晋作さんの思いをうかがい記事にしてくださいました。以下、田中さんの写真とレポートにより、“幻の知祭り”の様子と岩尾さんの熱いメッセージをご紹介します。

 

カモシカ書店は、JR大分駅から徒歩15分ほどの大分県立美術館へとつづくアーケード商店街のなかにあります。店主の岩尾晋作さんのお母様が営む洋装店の2Fに、2014年にオープンしました。

 

店名はサン・テグジュペリ『人間の土地』の一説に惹かれて名付けられました。本と戯れる鹿のシンボルマークは、福田利之さんのデザイン。栞、ブックカバー、トートバックなどのグッズにも施され、すっかり店の顔になっています。

 

岩尾さんは開店当時30歳、住みたい街をつくるチャンスだと考えて東京から帰郷し、この店を手がけました。古書と新刊本を扱う書店と、読書と交流の場としてのカフェが一体となっています。

 

33坪の空間に、古書と新刊がいっしょに並ぶ本棚を囲んで、テーブル席が21。厳選した材料の手作り菓子や軽食、こだわりの飲み物が用意され、居心地の良さに時の経つのを忘れます。課題を探すことに興味があるという岩尾さん。たとえば大分にはアート関係の本が少ないから力を入れて置いてみるといったことを試みているそうです。「自分の好みには固執せず、本の力に委ねる」とのこと。

 

岩尾さんは、セイゴオの手がけた松丸本舗に通っていたそうです。エディションフェアの相談を持ち掛けたときも即答で乗ってくださいました。『花鳥風月の科学』や『日本文化の核心』に触れながら、「松岡さんは博覧強記ですよね。理解できたかなと思うとその先があって、また分からなくなる。でも光が強められるのです。政治的でない教育提言もしていて参考になります。同時代の人で、松岡正剛を消化できる人はいないのではないでしょうか」との岩尾さんならではのセイゴオ論に、しきりに頷くばかり。

 

カモシカ書店の空間の大半は岩尾さんの手作りです。フェアのポスターが置かれた台も、どこか未完成の味わいがありました。

 

エディション棚(写真手前)は、「軍艦」と称するメインの棚と繋がるように、丹念に関係づけされていました。エディション、松岡本、関連本以外にも、岩尾さんが紐付けた本が日を追って加わっていきます。「情報は一人でいられない。本も一人にしてはいけない」というセイゴオのモットーが、遠く離れたここカモシカ書店のなかに息づいているかのようです。フェア棚が軍艦を導く灯台か、立ち寄る宝島のように見えてきます。

 

岩尾さんは大学時代からネット上で千夜千冊を読んできたそうです。エディションはまだすべてを読んでいる訳ではないけれど、どかっとまとめて読み通せる感覚がたまらないとのこと。エディションに取り上げられている本の一覧ファイルに「すごい、面白い、勉強になります」を連発。穏やかな語り口に、本への慈愛が滲み出ます。

 

一番の推し本を伺いました。「僕自身の本屋としての未熟さ、そして学習の終わりのなさ、面白さに圧倒されるという意味で『本から本へ』ですね。まだまだ読みたいです」。岩尾さんと本の話をしていると、こちらも読書欲が刺激されるのでした。

 

大分市でも新型コロナの感染が拡大し、ちょうどエディションフェアの時期に、従業員の方々やお客様を感染から守るため、休業という苦渋の決断をされました。そのためカモシカ書店の知祭りはわずかな期間だったのですが、お客さんの反応に手応えがあったそうです。岩尾さんからは「またこのような機会があれば、ぜひ参加させてください」という嬉しいメッセージもいただきました。

 

岩尾さんはファッションへの関心から、東京の大学を卒業後に文化服装学院で学んだそうです。好きなデザイナーは山本耀司さんと川久保玲さん。その後、渋谷のミニシアター、ジュンク堂書店新宿店の勤務を経験して、バッグパッカーとしてインドをはじめ世界を旅しました。

 

「今の店に辿り着いたのは、言葉なんです。これまでやってきたことはどれも繋がっているのです。すべて言葉に落とし込んで考えますからね。本には一生関わりたいです」。現在は地元新聞で「読書リハビリ中」というコラムも書いています。

 

「地方にいながら、本を介して世界や歴史と繋がることができると伝えること。本という文化が消えないための一助になること」と語る岩尾さんの想いは、ますます広がっていくことでしょう。

 

 

カモシカ書店HP
http://kamoshikabooks.com/