
- 2025.03.03 PUBLISHING
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長澤弘隆さんの千夜一冊-『空海の夢』を読む
栃木の満福密寺のご住職・長澤弘隆さんが、このたび、松岡正剛の『空海の夢』を精読した本を出版されました。長澤さんは、空海密教の現代的な価値を提唱する数々の企画を松岡正剛とともに手掛けた「密教21フォーラム」の事務局長を長くつとめた方です。
長澤さんの『『空海の夢』を読む』と、松岡正剛の『空海の夢』(左から旧版・新装版・増補版)
長澤弘隆さんは、昭和18年に智山派満福寺(現・満福密寺)に生まれ、早稲田大学で東洋哲学博士号を修得、インド哲学はもとより中国の儒・仏・道、さらに日本の思想にも通じた学究肌のご住職。松岡の『空海の夢』を読んで衝撃を受け、仏教学の枠組みを超越した松岡の編集的世界観にもとづく空海解釈を十年近くをかけて読み解き、満を持して松岡に会いに来られたという逸話の持主です。
松岡と長澤さんはたちまち意気投合し、長澤さんが事務局長をつとめる真言僧のネットワーク組織「密教21フォーラム」の諸活動を松岡が監修、編集工学研究所とともに数々のイベントや映像づくり、またWebコンテンツ制作のお手伝いをしてきました。
→「密教21フォーラム」によるサイト「エンサイクロメディア空海」
2002年赤坂草月ホールで開催した松岡監修・密教21フォーラム主催イベント「五大にみな響きあり」。密教21フォーラム会員僧侶たちが声明を披露し、炎太鼓と共演した。
『空海の夢』をきっかけに長年親交を結んだ長澤さんと松岡
このたび刊行された『『空海の夢』を読む』は、松岡の「千夜千冊」に肖って「千夜一冊」というサブタイトルが添えられています。内容は、「空海の夢」にはじまり「想像力と因果律」に終わる松岡の全28章の構成をそのまま踏襲したものとなっており、まさに長澤さんが長年にわたり『空海の夢』を精読しつづけた成果が集大成されています。長澤さんは、2024年8月の松岡の他界後、尋常ではない集中力でわずか数カ月で本書を書き上げたとのことです。
『空海の夢』によって、空海密教は世界レベルの「知」として復権した。文明開化の明治期、開明派の福沢諭吉や中江兆民は空海の密教(真言密教)を「淫祠邪教の類い」や前近代と言って排斥し、西洋化の潮流のなかで空海の密教は時代おくれの邪教扱いされてきた。西田幾多郎や鈴木大拙などにも真言密教を忌避する気配があった。そうしたなか、ノーベル物理学賞の湯川博士は空海の思想のなかに量子力学に通じる共通の「知」を見いだして松岡さんを啓蒙し、井筒俊彦は空海の「法身説法」「阿字本不生」という言語哲学に深い理解を示し、よって松岡さんの言語観を鼓舞させた。湯川博士・井筒俊彦及び松岡さんのおかげで、日本を代表する「知」の巨人空海は、本来そうあるべきだった世界レベルの「知」として、正統な評価を受けたのである。
長澤弘隆『『空海の夢』を読む』 まえがきより
長澤弘隆『『空海の夢』(松岡正剛)を読む』
2025年2月15日刊行 ノンブル社
*非売品
長澤さんは空海の言語哲学が生成された「現場」に迫る『空海ノート』を2009年に上梓している(ノンブル社)。松岡が帯文を寄せた。