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2020.06.03 PUBLISHING

セイゴオ総合監修「大船渡三十六景」、完成

岩手県大船渡市の魅力を伝えるビジュアル満載の冊子「大船渡三十六景」が出来上がった。仕様は、A4変形、96ページ、フルカラー。発行は3.11の震災直後から大船渡の復興事業に関わってきた大和リース、制作は地元のまちづくり会社「キャッセン大船渡」、そしてセイゴオ監修のもと企画・編集・執筆を松岡正剛事務所が担当した。

 


冊子『大船渡三十六景』

 

このプロジェクトが生まれたきっかけは、キャッセン大船渡のリテールマネジメント担当の中村純代さんが、大和リース社長の森田俊作さんと松岡正剛談義をしたことだった。森田さんからその話を聞き、プロジェクトの相談を受けたセイゴオは「どういう貢献できるかさっそく考えよう」と答え、2018年春、大和リースと松岡正剛事務所で現地へ赴きプランニングがスタートした。

 

編集方針の決め手になったことは2つあった。大船渡市は、津波によってすっかり流されてしまった津波復興拠点区域と、津波の被害から免れて昔の街並みを今に伝える地域とに分かれていたこと。セイゴオはその両方を伝えられるような企画をつくりたいと考えた。もう1つは、街を歩いているだけで、自然と耳に入ってくる土地の言葉「ケセン語」の音の響きと意味合いの絶妙なニュアンスを広く伝えたいということだ。

 

夏には、景色・人物_言葉の魅力を36の切り口で編集した「大船渡三十六景」という企画にまとまり、本楼でキックオフを実施した。大和リースの森田さん、久田友和さんのほか、キャッセン大船渡の臂徹さん、そして中村さんが、セイゴオのもとに集った。カメラマンは、週刊ポスト連載「松岡正剛ー百辞百物百景」でコラボレーションした太田真三さん。デザイナーは、MIKAN DESIGNの美柑和俊さん。

 

大船渡36景の制作MTG風景。太田真三さんが現地で撮影した写真をテーブル上に並べ、36景をどの写真にするか、松岡事務所、キャッセン大船渡、大和リースで話し合った。

 

大船渡の36の景色は「ここに、うみがある」「そこに、いのりがある」「ときをこえて」「とわにまじわり」「たましいふるわせ」「せかいへ、みらいへ」という6つのストーリーで構成した。1つのストーリーには、歴史から伝統菓子まで、自然から市場まで、多岐にわたるシーンが紐づいている。すべての景色が、これから何十年も語り続けていきたいヴィスタである。

 


「大船渡36景」のページ抜粋。大船渡を象徴する景色・事物の写真をレイアウトし、それらにまつわるエッセイを掲載。またまわりには“地元の声”が響くようにケセン語と地域の唄・民謡を配置した。6つのストーリー分類にあわせて、オリジナルアイコンを作成し、目次ではストーリーごとに一続きの文になる工夫をほどこした。

 

 

大船渡人というページでは、震災伝承館「潮目」管理人の片山和一良さん、ネイルアーティストの及川由里子さん、舞踏家の尾崎勇款さん、漁師の高橋典子さん、さいとう製菓の齊藤俊明さんはじめ36人の方にご登場いただいた。

 

セイゴオは冒頭で「誇り高く、愉快に」という巻頭言を書いた。「(抜粋)久しく地方創生が謳われている。大いに結構なことだが、私は謳うべきは、上からの音頭によるものだけでなく、その土地の誇りに基づくべきものだろうと思っている。そのためには各地で新たな風景・人物・文物・産物を選び、これを愉快に訴えるのがいい」と。

 

巻末の特別インタビューでは、大船渡在住の「ケセン語」の提唱者・山浦玄嗣さん(医師)にご登場いただいた。山浦さんは、ケセン語を用いて一言語の体系化に挑み、2000年に34,000語の語彙を収録した『ケセン語大辞典(全2巻)』を刊行、続いてギリシア語の原典から翻訳した「ケセン語訳聖書」に取り組んだ方。

 


山浦玄嗣さんのインタビュー風景。気仙地方の方言である言葉を「ケセン語」として体系化した理由、これからの大船渡が守るべき“ケセン語の文化”について語ってくださった。

 

情報収集から撮影協力まで、大船渡市の現地の皆さんの多大なるご協力をいただいた「大船渡三十六景」は、今後、キャッセン大船渡の復興活動の一つの「タネ」として様々な花を咲かせることだろう。すでに地元のある小学校では「自分の町の三十六景を作りたい」という話が出ているそうだ。

 

キャッセン大船渡HP
https://kyassen.co.jp/

 

文:和泉佳奈子