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2021.12.24 REPORT

REPORT 近江ARSプロジェクト発進

12月3日(金)、セイゴオが監修する「近江ARS」プロジェクトのキックオフイベント「染め替えて近江大事」が開催されました。会場は、琵琶湖の絶景を臨む滋賀県立芸術劇場の大ホール(大津市)。もともと今年9月に照準を合わせて準備されながらコロナ感染拡大を受けて延期、ようやく年末のこの時期に実現したものです。

 

第一部は「近江にARSを感じて」。セイゴオとともにこのプロジェクトを担う総本山三井寺(園城寺)第164代長吏の福家俊彦(ふけ・としひこ)さんが舞台に登場、プロジェクトの発端や経緯を紹介するとともに、現代社会の抱える問題をふまえて近江ARSが目指していくことを交わしました。

 

またこの日のイベントに先立って近江で行われた樂直入氏・熊倉功夫氏とセイゴオおよびARSメンバーとの交感会の様子や、これからARSプロジェクトへの参画を表明している隈研吾さんのメッセージなどが映像で上映されました。さらに田中優子さんと小堀宗実が舞台に登場し、それぞれの知見から近江の歴史的現在の可能性について、セイゴオや福家さんと語り合いました。

 

第二部は、福家さんの第164代長吏就任祝いとして、近江の文化経済にかかわる方々が次々と登壇。近江ARSを率いるプロデューサーの和泉佳奈子さん(百間代表)と石山寺の若きリーダー鷲尾龍華(わしおりゅうげ)さんの進行のもと、福家さんと近江ARSへの期待のメッセージを語りました。

 

会場には地元近江のほかに、遠方からセイゴオの友人やイシス編集学校の皆さんも詰めかけ盛況(感染防止対策として定員の半数の座席を解放)。イベント終了後はホワイエでこの日のために用意された茶菓がふるまわれ、お客様からも近江ARSへの期待を込めたメッセージが次々と寄せられました。

 

冒頭、近江ARSプロデューサーの和泉さんが登場し開演挨拶。この日をめざして足しげく近江に通い、セイゴオが監修する大プロジェクトの下地づくりに邁進してきた。

 

近江のもつ可能性を「別」というキーワードで語るセイゴオ。比叡山をはさんだ京都との一対性、最初に三井寺で「別所」を案内され感じ入ったことなどをふまえ、文化が変質し劣化しつづけている日本において、セイゴオがいかに「別様の可能性」を近江に感じているかを語る。

 

福家さんは、2019年に松岡と出会ってからの近江ARSの準備と推進の日々を振り返りつつ、福家さんが大好きなバタイユやワイルドのように、「はみだしながら近江交響曲をつくっていきたい」と抱負を語る。セイゴオが瞠目するほどの世界読書家である。

 

田中優子さんと小堀宗実さん(遠州流十三世家元)がゲストとして登場。田中さんは、大学時代に廣末保氏の「遊行」の講義を聞いてショックを受けたというエピソードから、近江を通過していった遊行民への関心を語った。小堀さんは、遠州流の茶の湯のなかに込められてきた近江の意伝子について明かした。

 

土地や風土が育んできた「見えないもの」をどう伝えるか。田中さんは、これまでの「教える」一辺倒の教育では「見えないもの」を伝えられないことを指摘し、「学び」の重要性を強調しつつ、近江ARSプロジェクトのあり方に期待を寄せた。

 

福家さんのブローデルの『地中海』のように琵琶湖を語りたいという大望に、田中さんが賛同を送る場面も。セイゴオは、ジョン・ラスキンがイタリアの聖堂でティントレットの作品が雨に打たれている光景を見て全美術史のやりなおしを決意したというエピソードを紹介、近江のなかで忘れられつつある歴史文化の再発見の重要性を説いた。

 

第二部は和泉さんとともに石山寺の鷲尾龍華さんが進行役をつとめた。三井寺・石山寺はともに近江を代表する観音霊場であるが、このようなかたちでのコラボレーションも近江ARSならではの新しい試み。

 

福家さんの長吏就任のお祝いに駆けつけた方々のメッセージが連なる。福家さんの右隣から順に、滋賀県の三日月大造知事、上冷泉家第25代当主・冷泉為人氏、観世流能楽者・河村晴久氏、美術史家の石丸正運氏。

 

このプロジェクトを機に近江との格別な縁を結ぶ邦楽家の本條秀太郎さん、詩人の平出隆(ひらいでたかし)さん、写真家のエバレット・ブラウンさん。本條さんはセイゴオのたっての希望で、今年8月、三井寺の国宝の書院で三味三昧なプライベート演奏会を実施。平出さんは福家さんのたっての希望で、登壇していただいた。

 

さらに近江ARSプロジェクトを推進する地元の経済文化リーダーたちが揃って、それぞれの近江への思いと抱負を語った。

 

開演前、琵琶湖をバックに記念撮影。右端は近江ARSプロジェクトの仕掛人であり、チェアマンをつとめる中山雅文さん。福家さんは、第二部のラストで、かつて臨済宗僧侶の寂室元光が近江へ動いたとき「五山が動いた」と称されたエピソードに匹敵するような、セイゴオの近江へのコミットメントを渇望しているという話をしてくれた。セイゴオが編集した「タルホ=セイゴオ・マニュアル」のような「オーミ=セイゴオ」共振の場を夢見てもいるようだ。

 

 

写真:川本聖哉

記事:太田香保