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2020.09.08 REPORT

8・28オンライン講演『千夜千冊の秘密』の秘密(メイキング篇/下)

本番なみに意を注ぐ前日リハーサル(8月27日)

 

本番前日の設営日も、都内は35度近くまで気温があがっていた。夕方になっても風がそよとも吹かない暑さのなか、病み上がりの身体を引きずるように、セイゴオが会場入りした。まっさきに迎えてくれたのは、この日も現場に張り付いて撮影していた後藤さんと林さん。セイゴオの体調を気遣うディレクターやスタッフの皆さんと簡単に挨拶をかわし、すぐに会場の設営の様子を確認し、そのままリハーサルに入っていった。

 

あまり無理をさせまいとするスタッフの配慮をよそに、セイゴオはできるだけ本番並みのパフォーマンスを、シナリオに沿ってやり通そうとする。本来のよく響く声と語りの速度がなかなか出ないようだったが、アクリル板への板書から読書服の紹介、ラストの梶井基次郎の「レモン」の置き方にいたるまで、いっさい手を抜こうとしない。

 

ひととおりリハーサルを終えたときには疲労しきっていたが、怠ることなく本番用の衣裳に着替えて、実際の導線に沿って動いてみようとする。丈が長めの黒いカジュアルジャケットと、ブラックデニムに大胆な赤や茶の柄と文字があしらわれたワイドパンツ、いずれもヨージ・ヤマモトで今回のトークのために揃えたものだ。

 

本の群れのなかで立ったり坐ったりしながら、「すごく着心地がいいんだよ」とうれしそうに語るセイゴオの顏に、不思議なことに生気が戻ってきている。会場入りしたときの張りつめた表情とは打って変わって、柔らかな面持ちをたたえている。サポートスタッフたちも「これなら大丈夫、本番も無事に乗り切れるだろう」と、安堵の目くばせをしあった。

 

会場入りしたセイゴオは面やつれしていたが、スタッフから設営の状況を説明されると、すぐに的確なディレクションを飛ばした。

 

シナリオに沿って、本番とほぼ同様にリハーサルをこなしていく。どんなに時間に追われても、体調が悪くても、これがセイゴオのいつものやり方だ。

 

シナリオを丸めて持つのも、本番を想定してのパフォーマンス。ときに進行・サポートスタッフたちに助言をもらいながら、一挙手一投足を細かく調整していく。

 

L:読書服の紹介では、柔かい布の扱いにもたもたしてしまい一苦労。R:17冊の「千夜千冊エディション」をつなぎながら語っていく第3部のリハーサルに入ると、いっそう集中力が増したようだった。

 

L:アクリル板の書きごこちを確かめる。R:レモンの取り出し方と置き方も入念に決める。

 

 

L:本番用のヨージ・ヤマモトの衣裳の着心地もチェック。R:リハーサル中に緊急で入ってきた別件のデザインチェックを太田とすばやく交わす。

 

リハーサルを終えてほっと一息。会場入りしたときよりも表情が和らいでいた。ヨージの服が、ライナスの毛布のようにセイゴオを安心させたらしい。

 

松岡さん、本番5分前です(8月28日・当日)

 

本番当日、セイゴオは昨日とは打って変わって晴れやかな表情で会場入りした。ジェイムズ・ジョイスの似顔絵が書かれたお気に入りのTシャツを着ている。じつはまだ風邪の後遺症の片頭痛は続いていたらしいが、昨夜のうちに納得のいくまでイメージ・トレーニングをしきることができたようだ。ちなみにジョイスは、講演準備と並行して編集を進めてきた千夜千冊エディション『方法文学』(10月刊行)に収録されることになっている。そのジョイスをまとうことは、セイゴオなりのゲン担ぎなのだろう。

 

会場ではすでにテクニカルリハーサルを終えて、各チームがそれぞれ本番準備に入っている。セイゴオも会場に入るなり、西井さん・宮本さん・和泉と最後の進行確認を交わす。前日のリハーサルでは、即興的に手に取った本で「目次読書法」をパフォーマンスして見せていたが、本番用に手に取る本をもう一度決め直しながら、その置き場所もひとつひとつチェックしていく。

 

開演30分前。本番を迎えるばかりとなった会場に、この日のライブに立ち会うわずか十数人のゲストが次々到着。会場に入るなり、5台もの映像カメラの砲列と黒い衣装で揃いのグレーのマスクを付け黙々と働く軍団スタッフたちの姿、さらにはソーシャル・ディスタンスを確保するために置かれたまばらな椅子や飛沫防止のアクリル板などを目の当たりにし、少し緊張しているようだった。

 

セイゴオは控室で、なおもシナリオに書き込みをし続ける。本番のトークではこのうちの3分の1ほどが削られ、かわりに予定されていなかった本やエピソードが新たに織り込まれていくことになる。用意をしつくしておいて、さらに卒意によってそれらを捨てていく。そうやって一回限りの編集的自由を飛翔させるのが、セイゴオ・トークのスタイルなのだ。

 

こうしてセイゴオは、ヨージのジャケットとパンツに身を包み、古武士のような表情を湛えながら、開演に向けての臨戦態勢に入っていった。あとは本番5分前の呼び出しを待つばかり――。

 

L:スタッフの西村が運転する松岡事務所の社用車ホンダアコードで会場入り。たちまち林さんがビデオカメラで追いかける。R:ジョイスの似顔絵が描かれたTシャツをスタッフに見せるお茶目な表情も。

 

L:第一部で目次を広げて見せる本を再度選びなおす。R:西井さんから本番の映像カメラの撮影位置などについて説明を受ける。

 

L:照明チームMGSの伊東社長をねぎらう。藤本晴美さんの衣鉢を継ぐチームがついてくれることはセイゴオにとって心強い。R:守護神のように全体を見守り、ときに適切なディレクション差し込むポマト・プロの飯島高尚さん(左)と、セイゴオを的確にナビゲートする宮本さん。

 

L:丸善の矢野社長・鈴木さん・樫山代官山の丹野さん・和泉による冒頭挨拶のリハーサルも徹底して行う。R:受付を担当する丸善チームの皆さんに、心づもりをお願いするセイゴオ。

 

L:「千夜本の庭」に見入るゲストの中山雅文さん(手前)と、まばらな椅子に座って開演を待つ(左から)天野舞子さん、森田俊作さん、田中優子さん、富田拓朗さん。R:配信用映像を撮影するビデオカメラ隊も、それぞれのポジションでスタンバイ。

 

お茶、スポーツドリンク、のど飴、冷えタオルそのほか、セイゴオのためのケアグッズが揃えられた控室はまるで作戦本部。和泉・太田がセイゴオを励ましながら、さまざまな角度から気になることを出し合っていく。

 

セイゴオのシナリオ。ワープロ打ちしたものに、太めの赤と青のペン、細めの赤と青のペンを使い分けて、さらに書き込みをしていく。

 

「東京代官山はたそがれです」。姿の見えないセイゴオの声が会場に響き、3時間半のトークが開演していった。

 

撮影:後藤由加里・寺平賢司
レポート:太田香保・和泉佳奈子