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2020.09.05 REPORT

8・28オンライン講演『千夜千冊の秘密』(本篇/上)

 

8月28日の夕刻、セイゴオのソロトーク「千夜千冊の秘密」が開催され、インターネットでライブ配信されました。もともと丸善創業150周年記念企画の眼玉として4月に開催が予定されていた企画ですが、COVID-19の感染拡大の影響を受け延期、リモート開催することになったものです。

 

社会も文化も自粛ムードに取り巻かれ、編集的自由の発露も飛翔もどんどん抑圧されていく状況に強い懸念を抱いてきたセイゴオは、今回の企画変更に対しても「ただのオンライン講演なんかやるつもりはない」と早々に宣言。そんなセイゴオの意気に応じてくれたスペシャリストたちとともに入念な計画と準備を重ね、破格な演出によるトークライブを数台のカメラワークによってあますことなく伝えるという、特別仕立ての一夜を決行しました。

 

その一部始終を、セイゴオの本番でのトークを中心にレポートする本編、準備~リハーサルの様子を紹介するメイキング篇の二回に分けてレポートします。

 

 

レポート:太田香保

現場写真:後藤由加里・寺平賢司

配信画像写真提供:小倉加奈子・佐々木千佳

 

 

■プロローグ 代官山からの一夜

 

セイゴオの講演が行われたのは、オンワード樫山がプロデュースする商業・文化空間「樫山 代官山」のギャラリー。ふだんは、瀟洒な植栽に囲まれた外光がたっぷり差し込む天高4メートルのまっ白な空間である。その無垢な空間が、「知の箱庭」のようにディスプレイされた大量の「千夜千冊」の本たち、さらに故・藤本晴美さんの志を継ぐ照明チームMGSによる立体感のある色彩と陰影によって、すっかり千夜千冊ライブトークのための特別スタジオに生まれ変わった。

 

ゲスト用に十数席だけ並べられた椅子。それを取り巻くように、この日の本番に向けて、水ももらさぬ密度で準備と確認とリハーサルを積み重ねてきた演出チーム、照明チーム、配信用の映像チームと記録用の映像チーム、音響チーム、さらに主催者である丸善チームも含めて総勢50人ものスタッフと厖大な機材がスタンバイ。

 

いよいよ18:00の開演時間を迎えると、はじめに主催者の丸善雄松堂社長の矢野正也さんと講演会の統括者である鈴木康友さん、「樫山 代官山」プロデューサーの丹野麻美子さん、本講演を企画プロデュースした和泉佳奈子(松岡正剛事務所プロジェクトマネージャー)の4人が登場。それぞれ「知」や文化を創造し発信してきた立場からこの日を迎えた思いを語り、このあと展開する3時間の未曾有のライブトークのプロローグへと誘った。

 

L:丘をイメージしてつくられた「樫山 代官山」(佐藤オオキ氏設計デザイン)。R:今回の会場となったギャラリー。自然光とグリーンが和ませる無垢な空間。

 

 

L:ギャラリーのエントランスには、セイゴオによる千夜千冊をテーマとした書を展示。R:会場内の壁面ミラーをつかって、本楼の書架が再現された(原寸大の写真)。

 

本が絶妙にレイアウトされ、すっかり本番を迎えるばかりとなった会場。

 


L:揃いのグレーのマスクを着けスタンバイする照明・音響・映像テクニカルチーム。R:開演を告げる4人の水先案内人。中央には、丸善が150年にわたり掲げてきた「知を鐙(とも)す」の「鐙」の字の抜き型。

 

セイゴオの第一声は会場内ではなく、ギャラリー外のグリーンに囲まれたテラスから発せられた。会場内にセイゴオの姿はなく、その声だけが響きわたり、オンライン配信では、ゆっくりとテラスからギャラリーへと歩き語る姿と声が届けられる。代官山の「たそがれ」に包まれながら、光と影が交差するトワイライトに重ねてちょうど講演の直前に発表された安倍首相の辞任と日本の「たそがれ」を暗示しつつ、一冊の本が孕む光と闇を語る。

 

ようやくセイゴオが、照明によって菫色に染められた会場に入ってくる。石井桃子『ノンちゃん雲に乗る』のノンちゃんの夢、トム・ソーヤやハックルベリー・フィン、アルセーヌ・ルパンなど不良や盗賊たちへの憧れ……。セイゴオの幼な心に刻印された本たちを引き連れて、第1部「本から本へ」の扉を開けていく。

 

オンライン配信では、たそがれの中を歩きながら語るセイゴオの姿と声から開演。写真は、スタッフたちがスタンバイする会場内に入った瞬間。

 

L:テラスから会場内にセイゴオが登場。ヨージ・ヤマモトのジャケットとパンツに身を包み、なんとなく海賊めいている。R:光と影のあわいのなかで、遠い幼な心の中の本について語る。宮本亜門氏、田中優子氏、森田俊作氏(大和リース社長)、三浦史朗氏(建築家)など十数人の特別ゲストが、息を呑みながら次第に明かされていく一夜の趣向に身をゆだねていた。

 

 

■第一部 本から本へ

 

もともと読書はリモートワークである。本と自分とのあいだのディスタンスをはかりながら、書き手と読み手の見えない距離を想像力で詰めていくものである。そんなふうに語るセイゴオは、2000年に始めてついに20周年を迎えた「千夜千冊」において、これまで何を果たそうとしてきたのか。

 

本は情報がコンデンセーションされインプレスされたもの。それを、もう一度コンデンセーションすることで、本の魅力をナビゲートし、キュレーションする。では、そのために何をすればいいのか、何を書けばいいのか。セイゴオは、本を書評するのではなく、選んだ本を「どう読んだか」を書こうとしてきたと語る。一冊の本には著者とともに、多くの読者や研究者たちが読み継いできたパフォーマンスが秘められている。そのパフォーマンスにアフォードされながら、いわば本とのあいだに起こった“恋愛沙汰”をこそ書こうとしてきたのだ。

 

石岡瑛子『I DESIGN』(1159夜)、ヨン=ロアル・ビョルクヴォル『内なるミューズ』(625夜)、リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』(1069夜)――。次から次へと本を取り出し、それぞれの本がもつパフォーマンスとアフォーダンスを示しながら、どのようにして「選ぶ・読む・書く・組む」をし続けてきたのかを語る。

 

その途中で、セイゴオが書斎で「千夜千冊」を執筆している様子を捉えた映像や、「マーキング読書」をやってみせる映像がはさみこまれる。これらは事前に編集工学研究所の映像スタッフによって撮影されたものだ。また、トークの進行に合わせて会場ではスクリーンに、オンラインではテロップで大きく、デザインチームの手によるスタイリッシュなタイトル文字やアイコンが連打された。

 

セイゴオのトークに合わせて、タイトル文字やアイコンが壁面スクリーンに浮びあがる。オンライン配信ではこれらの文字をテロップで表示。

 

 

本を次々と手に取り、持ち替えながら、セイゴオが20年にわたって格闘してきた「千夜千冊」の秘密を少しずつ明かしていく。

 


配信された映像のスクリーンショットより。配信用の映像は、ライブ映像に大量の文字情報を重ねていくために、つねに計算しつくされた構図で撮影されていた。

 

 

L:ゴートクジの書斎で千夜千冊を執筆中の様子を捉えた映像を紹介。R:セイゴオが長年提唱している「マーキング読書法」を実際にやって見せる映像。

 

 

千夜千冊エディション『本から本へ』の第1章「世界読書の快楽」を取り上げ、そこに収録された道元、パスカル、馬琴、バルザック、ポオの千夜千冊について、それぞれどんなふうにアプローチしたのかを語る。写真左のスクリーンのデザインワークは、千夜千冊エディションのデザイナーである町口覚氏と浅田農氏が本講演のために制作してくれたもの。

 

8・28オンライン講演『千夜千冊の秘密』(本篇/下)