- 2019.10.01 REPORT
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中国語になった『国家と「私」の行方』
セイゴオの著書『国家と「私」の行方』(春秋社)が中国語に翻訳されました。今年9月に黒龍江省のハルピンの版元(北方文芸出版社)で刊行され、すでに中国の書店に並んでいます。
『国家と「私」の行方』と中国版『歴史与現実』
東巻と西巻は「東方巻」「西方巻」とあらためられ、実はカバー色は青と赤が互い違いになっている。中国側の版元で「東はやはり赤にすべき」とこだわったため。翻訳を手掛けたのは孫犁冰(ソン・リビン)さんです。新潟で通訳会社を設立し、日中間のさまざまな会議や活動、書籍の翻訳を手がけてきたプロフェッショナルであり、現在は新潟青陵大学短期大学部で准教授をつとめています。 2010年11月、青山スパイラルホールの〈連塾〉に衝撃を受けて以来セイゴオに私淑し、編集学校に入門。守・破・離のコースを修了したあと、花伝所に入り、守の師範代も経験。セイゴオの方法を学び取ろうと研鑽を積んできました。
孫犁冰さんとセイゴオ
2019年9月27日(金)に孫さんが豪徳寺に来訪。セイゴオにできたての翻訳版を直接手渡した。読み慣れない簡体字をしげしげと眺めるセイゴオ
2015年末、ちょうど守の師範代をしていたころに刊行されたばかりの『国家と「私」の行方』を読み、現代社会への問題意識と歴史の切り口の斬新さにおどろき、この本を翻訳することを決意したと孫さんはいいます。
―――松岡さんの文章は言葉の一つひとつに多重の意味が込められているので、行間を読みとってどう表現するかに苦労しました。また些細なトピックから大きな問題意識にうつるアクロバティックな文章ハコビの面白さをどう表すか。改行や段落までできるかぎり忠実に翻訳しましたが、松岡さんの考え方が伝わるように思い切って意訳した箇所もあります。また中国の検閲は厳しいので、注意しないといけない部分もいろいろあります。“思想家”という言葉ですら過激に受けとられる場合がありますからね。とはいえ、松岡さんの文章の翻訳は、一度やってみるとヤミツキになってしまうんですよ(笑)。楽しくてしょうがない。夢中になって作業にとりくんでいました。(孫さん談)
孫さんの解説を真剣にきくセイゴオとスタッフたち
中国語による孫さんの序文を、一語ずつ日本語で說明してもらう。セイゴオは「堂々たる文章だ」と絶賛していた。「編集」に言及している部分に指を差す孫さんとセイゴオ
「中国の簡体字だと元々漢字だから多少は内容が読みとれるし、自分の言葉がどんな字で翻訳されるかがわかるから面白いね」。(セイゴオ)孫さんは『国家と「私」の行方』の中国語訳の意義をあらためて次のように語ります。
―――この本を通して松岡さんの方法的歴史観を中国の読者に知ってもらうと同時に、日本社会の動向への理解と認識を深めてもらいたいと思っています。日本が抱えている葛藤と矛盾は、香港デモや米中貿易摩擦といった中国の問題と共通する点が非常に多いからです。松岡さんは本書のなかで“歴史的現在”というキーワードを出されています。歴史を学ぶことは現在と過去との対話である、と私は解釈し非常に重要な言葉だと思いました。中国版を『歴史与現実』と題したのも読者にそのことを強く訴えたいと思ったからです。
孫さんはすでに次の松岡本の翻訳も計画しているといいます。
―――いまは『白川静」(平凡社新書)と『多読術』(ちくまプリマー新書)の翻訳を考えています。とくに『多読術』は大学の授業でフル活用するほど私にとって座右の書ですからね。そして、いつかはウェブ上に中国版の千夜千冊をつくりたいという企てもありますよ。
今後の翻訳プランを語る孫さん
「松岡さんの翻訳でやりたいことはたくさんあります。可能性は無限大ですね」と満面の笑みで思いを語ってくれた。取材・文:寺平賢司
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