- 2018.10.03 REPORT
-
中秋月夜見座@本楼は雨もよう月もよう
本楼亭主ことセイゴオによる、雨もようのなかの月語りから一夜が開演。音はバッハ「ゴルトベルク変奏曲」、セイゴオの書による「月」の大行灯と京染の深紅の着物が掛かっている。
黒づくめの衣裳の田中泯が、石原淋の手を引いてゆっくり登場。男は異人のようにも人攫いのようにも見え、女は童女のようにも老女のようにも見えて、孕み女である。
シェイクスピアからワイルド『サロメ』へ、ネフスキー『月と不死』へ。本棚劇場空間にセイゴオの月語りが響き、田中泯、石原淋のからだがそれぞれの場所でうつろっていく。
セイゴオの詠む宮沢賢治の月をかすめながら、喪服のような田中泯が本棚のなかに隠れ、一体化していく。と、そこへ山頭火の月も降ってくる。
石原淋の一挙手一投足が、月を宿してふるえる。「お月さまお許しを、あたしの耳たぶ返してよ。あたしも剃刀返すから」(中国の童謡)。田中泯の踊りに触発されて、セイゴオはドストエフスキーを語りだす。あるいはアレクサンドル・ソクーロフの映像の黒い面影を追っているのか。
セイゴオが蕪村の月を連射すると、田中泯は時間を自在にあやつりはじめる。「四五人に月落ちかかるおどり哉」「身の闇の頭巾も通る月見かな」「月天心貧しき町を遠りけり」。踊りがやみ、ひととき〝素〟の時間になって、田中泯の「振りつけ」の秘密をセイゴオが聞き出す。田中泯はいつだって闇で踊る無名者としての〝私〟であろうとする。
最後にセイゴオからサプライズとして、桑田佳祐の「月」が贈られると、田中泯が音魂の弾丸のように本楼を東へ西へいっぱいになって跳ねまわり、踏み鳴らす。
会場を転換し、田中泯と石原淋が手ずから収穫した野菜をつかった料理を囲む〝直会〟へ。編集工学研究所と編集学校の有志が腕を振るったオリジナルメニューはいずれも好評。写真:川本聖哉
レポート:太田香保
最新情報