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2023.10.05 PUBLISHING

【PUBLISHING】約30年をへて『知の編集工学』が 「増補版」にアップデート

2023年10月6日(金)、セイゴオの代表的著作でありロングセラーを誇ってきた『知の編集工学』の「増補版」が刊行されます。

 

表紙カバーデザインは編集工学研究所のデザイナー穂積晴明によるもの。本文内、「連想イメージ」の説明箇所に登場する「リンゴ」を略図的原型にして、ウサギやロボット、書籍やコーヒーカップと、様々に着替えさせた。多様でポップで暗示的なデザインに、セイゴオも絶賛していた。納戸色の帯には親交の深い作家の佐藤優さんと、漫画家のヤマザキマリさんが推薦文を寄せてくれた。

情報分析の基本が編集だと喝破した。(佐藤氏)

知性を成熟させるための必読書。(ヤマザキ氏)

 

 

1996年に刊行された『知の編集工学』は、セイゴオがはじめて「編集工学」の全貌を体系的にまとめたエポックメイキングな1冊です。

 

インターネット黎明期の只中で、「編集」は複雑な情報社会を生きる上で必須の技術であることを、多様な切り口で世に知らしめました。セイゴオの仕事の方法を公開したはじめての著作であり、現在にいたるまで「編集工学」の考え方と活用について包括的に学べる基本テキストです。

 

しかし刊行から30年ほどが経過し、クラウドコンピューティングやウェブ2.0、スマホや生成AIの登場によって、またたくまにIT情況は一変しました。セイゴオは本書に通底するメッセージの普遍性を理解しつつも、新時代に合わせたアップデートの必要性を感じ、このたび大幅な加筆修正をほどこし、装いを新たにした「増補版」として、世に放つにいたりました。

 

『知の編集工学 増補版』にサインするセイゴオ。新宿駅西口近くの「ブックファースト新宿店」の文庫売り場に並べる予定。限定30冊。

撮影:後藤由加里

 

本書の冒頭では、書き下ろしの序文「あのころの構想と最近の編集工学」を収録。本書刊行時の時代背景と執筆時の思い、そして今回増補した制作経緯を明かし、あらためて『知の編集工学』で問おうとしたメッセージを以下の5つの視点で解説しています。

 

    1.「世界」と「自己」をつなげる

    2.さまざまな編集技法を駆使する

    3.編集的世界観をもちつづける

    4.世の中の価値観を相対的に編み直す

    5.物語編集力を活用する

 

また「増補版」解説を社会学者の大澤真幸さんに担当していただきました。セイゴオとの思い出深い出会いのエピソードからはじまり、「もっともらしさ」「edit」「連想ゲーム」「世界定め」「数寄」「主と客の入れ替え」「性愛」というキーワードを串刺しにすることで、「編集工学」の秘密にせまる卓越した読解は、長年セイゴオと親交をむすび、数々のイベントやプロジェクトをともにしてきた大澤さんにしか書くことができない素晴らしい解説です。

 

「情報を関係づけられると、わくわくしてくるだろう。〈編集〉という作業は、宇宙の生成そのものを追体験するようなものだ、ということがわかってくるからだ。知にこのような躍動感を与える方法、知ることの快楽を最大限引き出してくれる方法、これが編集工学である。」(大澤氏)

 

 

セイゴオが『知の編集工学』のゲラにほどこした大量の赤入れの一部を、以下公開します。旧版と増補版を比較読書すれば、セイゴオの思想の変節を読み解く楽しみも生まれるかもしれません。ちなみに書籍刊行と同時に、電子書籍も販売される予定です。

 

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◆はじめに

「かくして編集工学は生命情報(もしくは情報生命)の驚異的なヴァリエーションがどのように生まれたかということを先駆的なモデルとし、そこから人間の知覚や思考が派生して、言葉や道具や計算のしくみを使いながら、どんなふうに知覚や思考を文明文化にあてがってきたかを多様多彩な副次モデルにして構成された。学問にしたいのではない。むしろ学問からスピンアウトした「方法の束」のようにしたかった。主題や主張からはできるかぎり自由でいたいのである。」

 

◆第1章 2 連想ゲームのなかで

「名詞や動詞や形容詞をつかう文法は、もちろん言葉づかいにとっては重要である。それはそうなのだが、そこにラケットやグローブにあたる「受け」や「放ち」が絡んでいて、その「受け」や「放ち」とともに文法がコミュニケーションのなかで陶冶されていく。それはアタマとカラダをつなぐ蝶番になっている。」

 

◆第4章 3 編集技法マトリクス

「私たちは、知覚・識別・判別・選択をのべつおこないながら、さまざまな行動をする。認知と行動をくりかえし試みているのだが、認知も行動も「体」と「心」でその機能と部品を少しずつ別々にマネージしているので、そこをつなげていくためのイメージ・プロセッシングが必要なのである。そのうち誰の中にもそれなりのイメージ・プロセッサーができあがっていく。その仕上がりぐあいは一人一人まちまちで、それが性格や思考の癖をつくっているとも言える。」

 

◆第6章 2 編集の創発性

「創発(emergency)とは、ある現象や対象にそれを構成している部分の機能や部分足し算(総和)だけでは説明できない性質があらわれていることをいう。複雑系の科学や非線形数学の研究を通して注目された概念で、同期リズム、リミット・サイクル、カオスの出現などが有名になった。要素の分析だけでは予測できない性質がたちあらわれること、それが創発なのである。」

 

記事作成:寺平賢司