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2022.09.21 PUBLISHING

伝説の連載シリーズが、約500ページのフルカラー文庫『見立て日本』となって登場

角川ソフィア文庫から、セイゴオの最新刊『見立て日本』が刊行されました。

「氏神」「借景」「鬼」「苗代」「祝詞」「のれん」「面影」など、日本文化の重要キーワードをあげながら、カメラマン太田真三さんが写した「日本の実景」と、セイゴオの「見立てエッセイ」を絶妙に組み合わせた待望の一冊です。

本書の元になった「百辞百物百景」は、2011年から2年のあいだ「週刊ポスト」で連載していた人気シリーズ。巻末のグラビアページのあいまに突如セイゴオの日本文化エッセイがあらわれるという異色の連載でしたが各方面で話題となり、連載終了後も問い合わせがあったり、刊行リクエストが寄せられたりしたため、なかば「伝説化」していました。

 

今回の文庫化に際して、元々の100回分に加えて、新しく20のキーワードを追加。近年のコロナ禍の中の日本の様子も含めました。タイトルも新たに『見立て日本』となって、フルカラー500ページの豪華な一冊となりました。

 

『見立て日本』のキーワード、「大仏」に登場する「牛久大仏」が表紙の中で佇んでいる。日常生活のなかに巨仏があらわれる異様さが、本書のコンセプトである「虚実皮膜」とマッチする。

 

「見立て」は修辞学的にはアナロジーとメタファーを重視する手法で、和歌や庭園、日本画や建築など、あらゆる日本文化の表現におよぶ技法です。現在の日本から何が連想され、暗示され、寓意されているのか。この分厚い「本歌取り」文庫が、日本文化にひそむ“虚実皮膜”を浮き彫りにします。

 

以下、セイゴオ&太田さんの“見立て技法”の一旦をご紹介。

 

産霊(むすび)

「ムスビと読む。それまで潜在していた力が目に見えてあらわれてくること。日本人はムスビの威力を紐や綱を大胆に結んだり、髪や髷を目立つように結んで、新たな力が湧き出ずることにひそかな祈りをこめた。大銀杏を結ぶ横綱こそはまさに“生きている注連縄”なのだ。」

 

借景(しゃっけい)

「万葉古今以来、“いけどり”が好まれてきた。花を手折って活け、月を盆水に映して楽しみ、雪を蔀越しに眺めた。まるごとではなく、一部だけをもってくる。するとそれが超部分となる。自身の胴を打ち抜いて向こうの街を「いけどり」にしたこの写真のビルのように、何かを借景するために何かを打ち抜くことも必要だ。」

 

案山子(かかし)

「最近はずいぶん少なくなった。ついにはリタイア飛行機にまでお役目がまわってきた。いったい案山子とは何なのか。何者か。蓑笠着けた案山子が不憫な一本足であるのはなぜなのか。実は案山子はれっきとした神さまだ。本名をクエビコという。しかも大変な物知りだ。」

 

曲舞(くせまい)

「楽曲、音曲、戯曲、作曲、曲芸、歪曲、曲者などという言葉に親しんできた。いずれも何かを曲げている。そしてどこか曲線的なのである。遊郭も長らく「曲輪(くるわ)」と呼ばれたきた。われわれの体や知覚には、小さなローラーコースターがいくつも潜在しているはずだ。」

 

女文字(おんなもじ)

「日本の書は王羲之をまねた光明皇后の『楽毅論』から始まっていて、仮名の書は女文字からスタートを切ったのだから、実は女子こそは日本の書文化の隠れた主役だったのだ。江戸時代の遊女たちも、どんな書をものするかということがすぐに評判になったほどだった。女文字、おおいに奮っていただきたい。」

 

絡繰(からくり)

「日本では、「仕掛け」のあるものならすべてが「からくり」で、それなら当然のこと、ロボットのルーツも絡繰人形ということになる。これはまさしく日本のアイドル文化の最前線だ。中将姫から金髪ロボットへ。安室奈美恵から初音ミクへ。アイドルは時代に応じて変化する。」

 

『見立て日本』

定価:本体2,000円(税抜き)

版元:角川ソフィア文庫

https://www.kadokawa.co.jp/product/322203001407/

 

カラー紙496ページの分厚さ。特別な綴じ方をしているので、どんなに本を開いて扇形にしても、ページが外れることはない。逆さにして「秋富士」に見立ててみた。撮影:寺平賢司