最新情報- 2026.02.05 REPORT
-
【REPORT】玄月音夜會第7回(最終回) 中村明一さんと「蕪村嫋嫋」
2026年1月28日、玄月音夜會の最終回となる第7回を開催しました。ゲストは尺八演奏家・作曲家の中村明一さん、フォークシンガーの小林啓子さん、さらにスタジオアーティストでギタリストのティム・ドナヒューさん。
中村さんは、密息や循環呼吸という超絶的な技法を体得し、虚無僧による尺八音楽をいまに伝えつづけてきた名演奏家です。またアメリカのバークリー音楽大学で学んだ現代音楽作曲家であり、『日本音楽の構造』『倍音』などの著書も持つ音楽学・音響学の専門家でもあります。
セイゴオは「遊」の音楽特集号をきっかけに中村さんと出会い、以来、中村さんの活動を応援しつづけるとともに、主宰するサロンやイベントなどでしばしば中村さんに尺八演奏や音楽講義をしてもらうなど、親交を結んできました。
今回の音夜會では、中村さんの尺八演奏はもちろんのこと、2004年ごろにセイゴオ作詞・中村さん作曲によりつくられた楽曲「蕪村嫋嫋」(ぶそんじょうじょう)を初演するという一大プログラムも組んでいました。その歌い手として中村さんが抜擢したのが小林啓子さんです。小林さんはまたセイゴオ作詞作曲の「比叡おろし」を長く歌い継いでくださってきた方です。
中村さんの尺八、小林さんのボーカルに、さらにティムさんのギターが加わり、古伝の尺八音楽からフォークの名曲、セイゴオ作詞のオリジナル曲までが演奏され、昨年6月以来つづけてきた「玄月音夜會」のフィナーレにふさわしい濃密な一夜となりました。

前半一曲目は東北に伝わる尺八の古典曲「獅子」。厳しい冬の寒風を思わせるような尺八の音が、本楼に響き渡る。

2曲目は虚無僧に伝わる名曲「薩慈」。中村さんの超絶的な演奏によって現代に蘇った曲である。中村さんは第一部では3本の尺八を用意し、曲ごとに持ち替えて演奏していた。

進行の太田香保(松岡正剛事務所)が、中村さんに密息や循環呼吸の秘密についてうかがい、実演していただく。かつてセイゴオもこうして、中村さんの超越技巧の秘密をインタビューしてきた。

2004年に松岡が開催した「連塾」の映像がモニターに映される。中村さんをゲストに迎えて、尺八音楽の「記譜」や奏法について話していただいたものである。

映像のセイゴオのナビゲーションを受けて、三曲目の「鶴の巣籠」の演奏へ。親子鶴の鳴き声を同時に吹き分ける驚異的な奏法が繰り広げられる。セイゴオも何度も中村さんの演奏で堪能してきた曲である。

休憩時間は恒例のまほろ堂蒼月の店主・山岸史門さんの和菓子のふるまい。この夜用意されたのはシナモンを効かせた椿餅。飲み物は、名古屋のVANKIコーヒー提供の特性ブレンドコーヒー。セイゴオの誕生日(1月25日)にちなみ、セイゴオ好みのセットにして提供した。

第二部は、中村さんの尺八演奏から一転、小林啓子さんとティム・ドナヒューさんのデュオによる「The Water is wide」からスタート。愛の試練をテーマにした有名なスコットランド民謡である。

中村さんが山頭火の詩に曲をつけたオリジナル曲「Close your eyes」につづき、セイゴオ作詞・中村さん作曲の「蕪村嫋嫋」が演奏された。蕪村の春夏秋冬の俳句を組み合わせてつくったものである。非常に長く、また歌詞も曲調も難解であるため、小林さんはこの日の初演のためにかなりの練習時間を割いてくれたのだという。

「ゆく春や 美人おのれに 背くかな ゆく春の 女からだを ひるがえす…」
蕪村の句を組み合わせてはいるが、セイゴオはこの曲に日本の「遊女」(あそびめ)への哀惜も込めているようだ。小林さんがさまざまな声色を使い分けて見事に歌う。

伴奏をつとめるティムさんも超絶的な技巧をもつギタリスト。中村さんと同じバークリーの出身である。ふだんはハープギター、フレットレスギターなどを演奏しているが、ガットギターを演奏するのはこの日が初めてだったそう。

小林さんが長いあいだ歌いつづけてこられたセイゴオ作詞作曲の「比叡おろし」。繊細で、しかも胸に迫る圧巻のパフォーマンスに、お客様もただただ聞き惚れていた。「あんさんの胸を雪にしてしまいますえ…」。

アンコールは、ボブ・ディランの「Blowin’IN The Wind(風に吹かれて)」。誰もが知る名曲だが、小林さんは「世界・日本の情勢をみていると、いまこそ必要な歌ではないか」と語る。中村さんの尺八による和のニュアンスも加わって、全7回の音夜會のすべてを締めくくりにふさわしいメッセージ性のあるラストソングとなった。

演奏会後は、音夜會マダムこと傳田京子さん(写真左)の挨拶にはじまり、白百合醸造の内田由美子さん(写真中央)によるフィンガーフードとホットワインによる歓談会。

フレッシュなイチゴとトマトの冷製スープ、甲州ワインで味付けしたゴボウ、広島のカキの米油漬け、手作りパテドカンパーニュなどなど、新鮮な素材をつかって、見た目にも美しい内田さんのフィンガーフード。ジンジャーの効いたホットワインも絶品。

第5回ゲストの井上鑑さんも、最終回に駆けつけてくださった。「松岡さんがいなくなったあとも、この場所で新しい出会いが次々と生まれていることに目をみはり、うれしく思っています」とスピーチしてくれた。

音夜會は、松岡正剛事務所・編集工学研究所スタッフのほかに、さまざまなメンバーが表方・裏方としてかかわって支えてくれた。写真は、裏方チーム「黒膜衆」。本楼で開催されるイベントのほぼすべてのテクニカルを担っている心強いメンバーである。

ゲストの皆さんと太田とで、音夜會の完遂を祝って記念撮影。左から小林さん、西松布咏さん(第4回ゲスト)、中村さん、太田、あがた森魚さん(第1回ゲスト)、井上鑑さん、ティムさん。
